建造物装飾の修理

彩色・剥落止め

SAISHIKI・HAKURAKUDOME

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彩色・剥落止め

彩色・剥落止め
SAISHIKI・HAKURAKUDOME

主材料

明礬(みょうばん)、膠(にかわ)、顔料(天然岩絵具・人工岩絵具・水干(すいひ)顔料等)

工程

[維持] 調査→養生→洗浄→剥落止め→補彩色(指定時のみ)
[新規・復元] 調査(修理時のみ)→設計図作成→掻き落とし(修理時のみ)→白色下地→模様転写→下塗→上塗→細部仕上げ

工法

[維持] A 剥落止め: 膠水を用い、刷毛で剥落部を押さえ定着させます。破損状況・施工箇所に応じ、注射器を使用し膠水を注入します。
B 補彩色: 剥離した塗装面と色調を合わせた顔料を使用し、補筆を行います。
[新規・復元] 修理時のみ現状の科学調査を行い、新規・復元ともに設計図の作成を行います。修理の場合は、現状彩色を掻き落とし、白地を引き、模様を転写していきます。単色から濃色に色を塗っていきます。

特長

当社では検査・調査機関と提携を結んでおり、エックス線撮影などの科学調査が可能です。
科学調査により得た情報を基に、顔料分析・下図・原図の作成を行います。(修理時のみ)

彩色・剥落止めの歴史

建造物彩色とは社寺の柱、壁、梁、枡組、彫刻などを彩るため日本画の絵具や金箔を使い、絵や模様を施します。

6世紀後半の仏教伝来は、寺院建築の装飾技法も日本にもたらしました。装飾技法のひとつである彩色技法は、木地の保護という意味も兼ね備えています。単色が中心だった彩色文化は、奈良時代に入り寺院建築内部天井回りへ、多くの色や金箔を使用した極彩色を施し、本尊を飾る荘厳として用いられました。時代と共に施工範囲は変化し、平安時代になると床面以外すべてに極彩色が施され、日本的な彩色文化が発展していきました。
建造物外部の極彩色は当初、蟇股内部・木鼻の彫刻部が中心でしたが、鎌倉時代以降装飾的な彫刻を目立たせるために極彩色が用いられ、後に柱・枡組にも施工範囲が広がりました。特に室町時代後期にあたる桃山時代には、漆を加えた建造物内外への豪華絢爛な彩色が施されます。

彩色・剥落止めの調査

建造物彩色の工事を始める前に現状の調査が必要です。写真記録を取り、目視調査で彩色塗膜の状況と塗膜断面の構造から修理履歴の考察をします。

目視で判断が困難な場合は、光学機材を用いた特殊撮影を行います。墨線を明確にする赤外線撮影、風蝕した彩色を確認する斜光撮影、平滑部はスキャナを用いた正視投影記録と、修理対象部材に合わせた記録を取ります。平彩色・絵画が想定される部分には、復元資料として彩色後の凹凸を記録する拓本を作成します。絵具や塗料の接着剤(バインダー)の特定には、科学分析調査を用います。蛍光エックス線分析や顕微鏡分析を行い、顔料の特定を行います。塗料の接着剤を分析するためには赤外分光分析を行い、接着剤に用いられた膠・漆・油性物を特定します。

上記の調査を基に復元図を作成し、報告書を作成します。

彩色の技法

復旧修理では既存の塗装面を剥離し、新たに加筆することで創建当時の色合いを復元する手法です。調査報告書を元に修理方針決定し、現場の型取り(見取り)を行い、設計図(復元見取図)を制作します。

建造物彩色は塗装面各所に綸子・亀甲・花菱・唐草・宝相華・菊花紋・青海波といった模様や、龍・麒麟・象・獏・獅子・天人・迦陵頻伽・牡丹・蓮の絵画が描かれており、設計図通りに色を乗せていきます。
彩色作業では顔料に天然岩絵具、人工岩絵具等(新岩絵具)等の日本画に用いられる絵具を使用し、創建当初の華やかな色合いへ復元します。岩絵具の粒子の大きさは4番から13番あたりが用いられ、番数が上がるほど粒子が細かく、色は淡くなります。もっとも粒子が細かく、色が淡いものを白(びゃく)と呼びます。伝統的な絵具の材料には、青色にアズライト(藍銅鉱)・蓼藍(植物染料)、赤色は辰砂(水銀)・朱・鉛丹・臙脂(えんじ:ラックカイガラ虫幼虫の分泌物)・珊瑚・岱赭(たいしゃ:酸化鉄) 、緑色はマラカイト(孔雀石)、黄色は藤黄(とうおう:海藤樹樹皮)・雌黄(しおう:石黄)・黄土、黒色に墨・電気石、白色は胡粉・白土・鉛白・雲母(うんも)、灰色に黒曜石、金茶は虎石、錆金茶は虎目石を使用します。

使用する絵具は既成のものがあるのではなく、現場で顔料と膠水を練り合わせて作ります。膠水の濃度は顔料の粒子の大きさや施工工程によって異なるため、そのつど膠の濃さを調整します。膠分が弱いと塗り重ねに必要な接着力が弱く、剥落の原因になります。膠分が強いと発色が悪くなることや、ひび割れの原因になります。筆は穂先が整い、描いている途中で割れない適度な弾力性があるものを使用します。そして絵具や墨をよく含み、含んだ絵具などが途中にたまらず、描いた後に穂先がすっとそろうものがよい筆と言われます。筆の大きさは大・中・小や号数などで表され、穂の長さも様々です。粒子のある顔料をたっぷり含ませて描く時に使用するのが、彩色筆です。やわらかく、穂先がとがり絵具を多く含む彩色用の筆です。一般的に使用される材料は獣毛が多く、絵具の含みがよい羊毛で覆われ、芯になる部分に狸毛・イタチ毛・鹿の夏毛・馬毛が使用されます。墨や絵具をぼかすときに使用するのが、隈取筆です。ぼかし筆とも呼ばれ、水を含ませ、先に塗った絵具が乾く前にぼかすように使用します。材料に羊毛・夏の馬毛・鹿毛を使用し、穂が太く、丸みを帯びた形が特徴です。広い面に平塗りする際に用いるのが平筆です。角度によって広い面はもちろん細部を塗ることが出来る筆です。良質な柔らかい羊毛が原料として使われます。絵具の含みが良く、平塗りする場合にムラのない均一な面を描くことができます。金泥など穂先にまとわりつく、「おり」の悪い画材を使用する際は、リス毛と光羊毛を材料とした金泥用平筆、マングースの毛を使用した刷毛平筆などもあります。

施工部分は既存の絵具を鉋・ヘラ・ブラシ・スクレイパーを使い木地に傷が付かないよう剥離します。灰汁止めに明礬(みょうばん)水を2回~3回引き重ね、木地の破損部には埋木や刻苧(こくそ)で充填を行います。
木地の処理が終わった後、胡粉下地を2回程度塗ります。顔料をむらなく塗装できるよう表面に紙やすりを当て、滑らかな表層状態にします。模様に応じて胡粉を塗り重ねて盛り上げ、立体的見せる部分や下絵の輪郭を墨で描くこともあります。箔押し部へは接着剤を塗り金箔を押します。絵具塗装面は淡色部から顔料を塗り重ねます。仕上げに細部の描き込みを行い、破損前の鮮やかな状態へ復元するため筆を進めます。

剥落止めの技法

剥落止めは建造物彩色を現状のまま保存する工法です。

現状の塗膜保存を行うため塗装面を調査し、剥離状況を把握し損傷図面を作成します。剥離原因としては、塗装された木部が長年の温湿度の変化によって伸縮することや、金属部分のサビによる膨張によって塗装面と木部の接着力が弱まって剥離することや、木部のひび割れ、虫害による木部欠失などが原因になります。また塗装面に使用していた膠の接着力が弱まり、木部と絵具が固着することが不可能な状態となることで、顔料が粉状になった状態で剥離する場合もあります。

施工作業は塗装部分の痛みが激しいことが多いため、十分注意して作業を行います。
経年劣化とともに長年の汚れが付着しているため、最初に刷毛・筆・消しゴムを使った洗浄を行います。
劣化の程度によって,粉状に剥落するもの,層状に剥落するものの2種類に大別でき、剥離の状態に合わせて接着剤(膠水、布海苔等)の濃度を変える必要があります。塗装面にレーヨン紙を当て

①筆や注射器で膠水を注入・塗布
②スプレーで塗装面に噴霧

⓵⓶どちらかで接着剤を塗布した部分に圧力をかけ、木地との再接着を図ります。十分な接着力が得られるまで同じ工程を3~4回繰り返します。
※すでに剥落してしまった箇所への補彩,加筆等は指示がない限り行いません。

このように現代から未来へ現存する彩色を残していく作業を行います。

彩色・剥落止めの施工範囲

社寺建築の礼拝の対象となる建造物には彩色が施工されていることが多く、特に桃山時代から江戸時代初期のものには大変華やかな彩色が施工されています。
柱や長押、斗組などの建造物の構造部、鏡天井や障壁画などの大場面にも絵画があしらわれていることがあります。また、彩色ということでは、襖や屏風、扇子面、仏像、仏壇仏具など周りを見渡せばいろいろと目に留まります。

彩色・剥落止めの施工例

・京都府知恩院御影堂 宮殿・須弥壇 復元彩色
・岐阜県真禅院本地堂 復元彩色・剥落止め
・滋賀県瓦屋寺 檜絵仏画(三十三応現身像) 剥落止め

当社の彩色・剥落止め

当社では専門の科学分析調査機関と提携を結んでおり、迅速に顔料調査を行うことが可能です。また、減少傾向にある膠製造業者とも連携を取り、作業に必要な膠を確保しています。

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