建造物装飾の修理

漆塗り

URUSHINURI

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漆塗り

漆塗り
URUSHINURI

主材料

生漆、精製漆

工程

木地調整(新規のみ)→下地→中塗→上塗→蝋色・金箔押(指定時のみ)

工法

A 本直し: 古漆をすべて掻き落とし、木地補修、下地施工後に漆を塗り重ねる工法です。
B 上塗り直し: 既存の塗膜は剥離せず、傷を下地で繕い、漆で塗り上げます。
蝋色: 上塗後に残る刷毛目の凹凸を研磨し、精製漆で鏡面化させる技法です。
金箔押: 漆塗面へ漆を接着剤として金箔を押す技法です。

特長

漆にはおもに国産と中国産があり、文化財修理には国産漆の使用が義務づけられています。
当社では国産漆確保のため生産地と独自で連携を取っています。

漆塗りの歴史

ウルシ科の植物は日本に自生するものもありますが、漆塗りに使用される漆は中国大陸から輸入されたと考えられています。

漆の樹液を利用して、割れた土器片の接着を行ったり、弓矢の箆(の)という棒の部分に矢じりを接合したりした遺物があり、日本人の漆の利用は縄文時代にまでさかのぼることができます。漆の利用は現代まで受け継がれ、漆器などの生活用品や調度品、現代アートの素材として幅広く使用されています。

当社が施工する文化財修理の世界でも、塗装仕上げの一種として利用しています。漆を塗る技術を「髤(きゅう)」ということから、漆塗を「髤漆(きゅうしつ)」とも言います。日本が鎖国をする前には南蛮貿易での輸出品の一つとして人気を博し、マリア=テレジア、マリー=アントワネット親子によるコレクションに加えられ、現在でもベルサイユ宮殿博物館に飾られています。江戸時代後期、日本の開国後も蒔絵が施された漆器や調度品は、各国で開催された万国博覧会でも人気の一つとなり、漆器=『JAPAN(じゃぱん)』と言われていました。残念ながら化学塗料の利便性に負けてしまい、現代では家庭用品への使用も少なくなってしまいました。

現在では、社寺仏閣等の建造物や荘厳具への塗料として利用されることがほとんどですが、現代アートの素材として再評価され始めていることはうれしい限りです。

漆塗りの特性

日本産や中国産の漆は、ウルシオールを主成分としてゴム質及び含窒素物、水で構成されています。ベトナム漆はラッコールが主成分となり、ミャンマー産はチチオールが主成分となります。産地によって主成分が異なるのも面白いところです。漆は、一般の化学塗料(ペンキや樹脂塗料など)と違って乾燥して固まるのではなく、樹液の中に含まれるラッカーゼという酵素が酸素と結合することによって硬化がはじまるため、塗膜を形成した後も数年は硬化が進み、塗装後も独特の風合いが保たれます。このような性質があるため長年の使用に耐えることができ、家具調度品・食器などの日用品から神社仏閣の装飾塗料として幅広く活用されています。また、塗重ねや塗直しができることも特徴でしょう。また、漆の塗膜の効用として防虫効果、防蝕効果も挙げられます。漆塗膜は、建材によく用いられるケヤキやヒノキ、ヒバといった木材を、シロアリなどの虫害や、風雨による侵食から保護してくれます。また、漆の実は蝋燭の原料となり、近年では漆の種子を煎ってコーヒーのように飲用することも流行っています。

江戸時代では各藩の殖産興業の一環として栽培されていたこともありますが、現代では日本全国でも漆の木を植林しているところは少なくなっています。岩手県二戸市浄法寺地区や京都府京丹波市夜久野地区など国産漆の産地はごくわずかです。樹液を採取するために植樹された漆樹は7-10年程度そだてられ、「殺し掻き」という方法で乳白色の樹液を採取します。殺し掻きとは、採取しだしたその年に漆樹を伐採して、出来るだけ無駄にしないように樹液を集める掻き方です。場所によっては梅雨頃から漆樹の表皮に傷をつけ、「初瀬(はつせ)・初辺(はつへん)」といわれる水分量の多い樹液から、「盛り辺(さかりへん)」という水分量と粘度バランスのいいもの、秋口からは盛り辺の後の「遅辺(おそへん)」というそれぞれ性質の違う漆液を採取します。これらの時期に採取できた漆を総括して「辺漆(へんうるし)」と言います。掻き痕のないところから採取する「裏目漆(うらめうるし)」「留漆(とめうるし)」、細い枝や梢から採取する「瀬〆(せじめ)漆」〔※今では利用されていません〕まで、約半年ほどを掛けて採取します。そして採取しつくした漆樹を伐採し、7-10年後のために苗を植樹します。ちなみに中国では「養生掻き」と言って、1本の漆樹から何年かにわたって樹液を採取します。

漆掻きの道具は、漆樹の表皮をめくる「皮剥ぎ鎌」、掻き疵をつける「掻き鎌・えぐり鎌」、にじみ出てきた漆を掻きとる「掻きベラ」、掻きとった漆を入れる「漆壺・漆桶」が主な工具になり、漆掻きは全て手作業で行います。

1本の漆樹からおおよそ180-200cc程度しかとることができない漆は人手がかかる割に生産性が低く、化学塗料に負けてしまったのです。

漆の生成と漆塗りの種類

生漆に色々な加工をすることで、たくさんの漆の表情を出すことができます。採取された漆は粗味漆(あらみうるし)と言い、樹皮や土などが混入しているため、綿や布を入れて濾し、不純物を除いていきます。そうしてできた純粋な漆液を生漆と言います。漆は耐水性・耐熱性・耐酸性・耐アルカリ性を持つ非常に優れた塗料です。欠点は紫外線に弱いということです。

生漆を撹拌し、均一な状態にする「なやし」工程、熱を加えて漆中の水分を飛ばす「くろめ」工程を経ると精製漆になります。この状態の精製漆を「素黒目(すぐろめ)・木地呂漆(きじろうるし)」と言います。この透明な漆に油分を入れると「朱合漆(しゅあいうるし)」といい、このように油分を入れた漆の総称として「塗立漆(ぬりたてうるし)・花塗漆(はなぬりうるし)」と言います。油分とは、荏油や亜麻仁油、桐油を指します。

一方で、精製段階で油分を入れない漆を「蝋色漆(ろいろうるし)」といい、呂色とも書きます。この精製漆に油煙や鉄分、水酸化鉄を入れると黒色の漆になり、江戸時代では鉄漿(おはぐろ)を入れていました。無油の漆には箔下漆や梨地漆が含まれます。

漆には油の有無によって表情が変わるとともに、混合する顔料によって色を変えることができます。黒色の漆には鉄、辰砂朱や紅柄は赤色や朱色の漆に、青色〔緑色〕や黄色も可能です。また、赤色と黒色とを混ぜることによりあずき色に発色するうるみ(潤み)や、顔料を入れないことで透明感を演出する透き漆の一種「溜塗(ためぬり)」や春慶塗といった技法、金粉や銀粉を使用した「梨地」というフルーツの梨の肌に似た仕上げも可能です。まさしく無限大の可能性が秘められています。

漆塗りの技法

木地などに直接漆をしみこませる「摺漆」といった技法があり、木目を見せる仕上げとなります。またケヤキなどの導管の大きい木材には漆を拭くようにして塗り込んだ「拭き漆目弾き(めはじき)」仕上げという技法もあります。導管部は強く漆を弾き、木目は導管より吸い込みが強いので印影がはっきりとします。

木目を活かす技法の一方で、木目を消すために下地を用いて塗膜を形成する方法もあります。下地方法には堅地と半田地があります。堅地と半田地の違いは、下地を形成する材料に変化があり、定盤という台の上で、地の粉と砥の粉と水を漆で練るか、膠で練るかの違いです。膠は牛など動物の骨の髄液を煮凝りとしたもので、漆と比較すると容易に手に入ります。漆は先に述べた通り手に入りにくくなっているので、半田地は堅地の代用として開発されました。

下地を塗る前の下処理として、木地と木地との合わせ目である仕口(しくち)に、刻苧・木屎(こくそ)という漆と木の粉を練ったものや、小麦粉と漆を練った麦漆を充填します。全体的に木地固めを行った後に、寒冷紗や麻、和紙などをはる布着せ、紙着せをおこない、木地拵えを行います。下地を箆で付けていくのですが、下地の回数が増えるにつれて、肉厚にする地の粉の量を減らし、表面をきめ細かにする砥の粉の量を増やしていきます。粒子の大きさによって、荒地粉、切粉、錆粉、化粧地の粉などと呼びます。下地を付けるごとに研ぎという作業も行います。箆付すると下地にガタガタのところが出てきてしまうので、金剛石やサンドペーパーなどを利用し水研ぎ又は空研ぎします。最後に「めすり」という作業を行い、下地の表面をさらえます。そこから顔料を入れた精製漆を刷毛塗りしていきます。刷毛には人毛が使われていますが、この人毛は海女さんの髪がふさわしいと言われてきました。海女さんの髪の毛は海水に含まれるミネラル分がふんだんに浸透し、こしがあるいい刷毛ができると言われています。近年ではカラーリングやパーマをかける女性も多く、刷毛にふさわしい髪がなく、人毛までも中国や東南アジアの女性の毛髪に切り替わっています。捨て中塗り・中塗り・上塗りと2~3回刷毛塗を施工された漆塗りは、混合した顔料によって漆黒の輝きやあざやかな赤色を放ちます。肉厚のむっくりとした塗上がりとなり、化学塗料にはだせない柔らかさを感じることができます。刷毛目を消すために「蝋色」という技法を用いる場合もあります。炭で水研ぎをする「胴擦り」を行い、生漆を塗って磨き粉で研磨を繰り返し、奥深い色合いを出していきます。

工房での漆製品は漆風呂・室(むろ)という温湿度を管理した乾燥室のようなものを備えていますが、文化財修理の現場ではそのような調整が難しく新聞紙や布に水を打って温湿度の調整を行います。この作業を「湿し(しめし)」といいます。

漆塗りの施工範囲

下地は木目を消すために施工しますが、木材の木口や板目、柾目によって下地の施工厚さなどを変化させて対応します。神社仏閣では、粽付き柱・四天柱・連枝柱などの柱や太瓶束・蓑束など軸部と、内法長押・貫・虹梁などの横架材の繋ぎ目である仕口を、わざと口が開くように塗ることもあります。柱間装置である唐戸や板戸、壁を構成する琵琶板や羽目板、神社では榑縁(くれえん)や切目縁・浜縁・落縁や大床などのいわゆる縁側を構成するところにも施工します。楣(まびし)や腰長押などの柱間装置と舞良戸・蔀戸・花頭窓を塗ることもあります。扉を吊り込む藁座や幣軸、鬼斗・大斗・方斗・巻斗、雲肘木や枠肘木・実肘木など、二手先や三手先斗組を施工することもあります。建具の障子や襖の框、須弥壇や脇壇の框、敷居なども塗る場合があります。外部の向拝柱や飛檐垂木や地垂木、打越垂木などを施工する場合もあります。神社でも唐破風や千鳥破風、桁隠しと言われるところや、梅鉢懸魚・三花懸魚・鏑懸魚といった種類がある降り懸魚や拝み懸魚などに施工してきました。

漆塗りの施工例

・京都府知恩院御影堂
・岐阜県真禅院本地堂
・京都府元離宮二条城二之丸御殿唐門

当社の漆塗り

当社は国内でも数少ない漆生産地と直接連携をとっていることで、安定的に国産漆の確保ができています。また、当社は一般社団法人社寺建造物美術保存技術協会正会員であり、漆塗り工事の上級技能者をかかえています。上級技能者のもとで20代~30代の若手技能者も数名所属し、日々漆という天然素材の変化に悪戦苦闘しながら頑張ってくれています。併せて当社は特定建設業資格も保有しているため、かなり大規模な工事を請け負うことが可能です。

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