彩色・単色塗り
このページの要点
剥落止め(はくらくどめ)とは、浮いたり剥がれかけたりしている彩色層を接着剤で固定し、それ以上失われないようにする処置です。ここで押さえるべきなのは、これが「元通りに描き直す」処置ではないということです。「今残っているものを失わない」ための処置であり、文化財修理では最も重要な工程のひとつです。

浮いた彩色層に接着剤を含浸させて元の場所に固定し、それ以上の脱落を防ぐ処置です。
建造物や仏像に施された彩色は、時間とともに顔料を定着させている膠(にかわ)などの接着力が失われていきます。すると絵具の層が浮き上がり、粉状になり、触れると落ちる状態になります。
この状態を放置すれば、当初の彩色は取り返しのつかない形で失われます。剥落止めは、そうなる前に留める処置です。剥落防止、剥落止め処置とも呼ばれます。
木部の伸縮、金属のサビ、木部のひび割れや虫害、そして膠の接着力の低下が主な原因です。
| 木部の伸縮 | 長年の温湿度の変化で木部が伸び縮みし、塗装面との接着が弱まります。 |
| 金属のサビ | 金具などのサビが膨張し、周囲の塗装面と木部の接着を弱めます。 |
| ひび割れ・虫害 | 木部が割れたり、虫害で欠けたりすると、上の彩色も失われます。 |
| 膠の劣化 | 顔料を固着させる膠の力が弱まり、絵具が粉状になって剥がれます。 |
原因によって剥がれ方も変わります。そのため処置の前に、何が起きているのかを見極めます。
文化財において価値があるのは、当初に描かれたその絵具そのものだからです。
新しく描き直せば、見た目は鮮やかになります。しかし当初の絵具が持っていた情報は、その瞬間に永久に失われます。どんな顔料が使われ、どう塗られ、どんな筆致であったか——それは現物にしか残っていません。
そのため保存修理の原則は「残せるものは残す」であり、剥落止めはその原則をもっとも端的に体現する処置といえます。
褪せて見えにくくなっていても、それが本物である限り、留めることに意味があります。「どうせ見えないのだから塗り直したほうが」というご意見をいただくこともありますが、一度失えば戻らないという点は、判断の前に共有しておきたい事実です。
写真記録と目視調査で塗膜の状態を把握し、剥離の範囲を損傷図面にまとめます。必要に応じて特殊撮影や科学分析も行います。
| 写真記録・目視調査 | 彩色塗膜の状況と、塗膜断面の構造から修理履歴を考察します。 |
| 損傷図面 | 剥離の状況を図面に記録し、処置の範囲を決めます。 |
| 特殊撮影 | 墨線を明確にする赤外線撮影、風蝕した彩色を確かめる斜光撮影など。 |
| 科学分析 | 蛍光エックス線分析や顕微鏡分析で顔料を、赤外分光分析で膠・漆・油性物といった接着剤を特定します。 |
当社は専門の科学分析調査機関と提携しており、顔料の調査を迅速に行えます。また、減少傾向にある膠の製造業者と連携し、作業に必要な膠を確保しています。
状態を調べ、接着剤の種類と濃度を決め、狭い範囲で試してから全体に及びます。
接着剤の濃度は、濃すぎれば艶が変わって見た目を損ない、薄すぎれば効きません。対象や状態によって適正が変わるため、必ず試してから本施工に入ります。
粉状に剥落するものと、層状に剥落するものの二つに大別できます。
| 粉状 | 膠の接着力が失われ、顔料が粉になって落ちる状態。触れると指に色が付きます。 |
| 層状 | 絵具の層が浮き上がり、まとまって剥がれ落ちる状態。 |
どちらの状態かによって、使う接着剤とその濃度を変えます。同じ建物の中でも部位によって状態が違うため、一律の処方では対応できません。
塗装面にレーヨン紙を当て、筆や注射器で膠水を注入・塗布するか、スプレーで噴霧し、圧力をかけて木地に再接着させます。
なお、すでに剥落してしまった箇所への補彩や加筆は、指示がない限り行いません。剥落止めは、今残っているものを留める処置だからです。

「触ると粉が付く」「絵具が浮いて見える」と気づいた時点が目安です。剥落は進行性で、落ちた絵具は戻りません。
次のような状態は、早めのご相談をおすすめします。
また、堂宇の修理で足場が架かる機会は、高所の彩色を間近で確認できる貴重なタイミングです。屋根や塗装の工事にあわせて彩色の状態も見ておくと、後戻りのない判断ができます。足場を解体してしまうと、次に近づけるのは何十年も先になりかねません。
浮きは進行し、やがて脱落します。失われた当初の彩色は、二度と戻りません。
剥落は自然に止まりません。振動、温湿度の変化、わずかな接触で、少しずつ確実に失われていきます。とくに浮いた状態は最も落ちやすく、この段階で留められるかどうかが分かれ目です。
また、剥落が進んでから修理を検討すると、選択肢そのものが狭まります。留めるべき絵具が残っていなければ、剥落止めという処置自体が成立しないためです。
当社は建造物装飾の彩色・剥落止めを本業として手がけています。詳しくは彩色・剥落止めのページをご覧ください。仏像など美術工芸品の彩色については美術工芸品の修理もあわせてどうぞ。
岐阜県 真禅院本地堂の復元彩色・剥落止め、滋賀県 瓦屋寺の檜絵仏画(三十三応現身像)の剥落止めなどを手がけてきました。
| 岐阜県 真禅院本地堂 | 復元彩色・剥落止め |
| 滋賀県 瓦屋寺 | 檜絵仏画(三十三応現身像)剥落止め |
| 京都府 知恩院御影堂 | 宮殿・須弥壇 復元彩色 |
そのほかの事例は施工実績をご覧ください。



剥落止めとは、浮いたり剥がれかけたりしている彩色層に接着剤を含浸させて元の場所に固定し、それ以上失われないようにする処置です。剥落防止とも呼ばれ、文化財修理では最も重要な工程のひとつです。
剥落止めは今残っている当初の絵具を失わないための処置で、描き直しは新しく描く行為です。文化財において価値があるのは当初に描かれた絵具そのものであり、描き直せば見た目は鮮やかになっても当初の情報は永久に失われます。保存修理の原則は残せるものは残すことです。
浮きの範囲や絵具の種類、下地の状態を調査し、膠などの接着剤と濃度を決め、目立たない狭い範囲で試験施工してから、含浸・圧着・養生と進めます。濃すぎれば艶が変わり、薄すぎれば効かないため、必ず試してから本施工に入ります。
触ると粉が付く、絵具が浮いて見える、床に絵具の粉や小片が落ちている、絵柄の輪郭が不明瞭になったといった状態が目安です。剥落は進行性で一度落ちた絵具は戻りません。また堂宇の修理で足場が架かる機会は高所の彩色を確認できる貴重なタイミングです。
浮きは進行し、やがて脱落します。振動や温湿度の変化、わずかな接触で少しずつ確実に失われ、失われた当初の彩色は二度と戻りません。剥落が進むと留めるべき絵具が残らず、剥落止めという処置自体が成立しなくなります。
長年の温湿度の変化による木部の伸縮、金具などのサビの膨張、木部のひび割れや虫害による欠損、そして顔料を固着させる膠の接着力の低下が主な原因です。膠が劣化すると絵具が粉状になって剥がれます。
指示がない限り行いません。剥落止めは今残っている当初の彩色を留める処置であり、すでに剥落してしまった箇所への補彩や加筆は、指示がある場合に限ります。
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