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漆の技法と材料

国産漆と漆掻き

株式会社若林工芸舎 文化財・社寺建築の装飾専門工事更新:

このページの要点

文化財の漆塗り修理では国産漆の使用が原則として義務づけられています。しかし国産漆はきわめて希少です。漆の木を7〜10年育てて、1本から採れる樹液はわずか180〜200cc程度。しかも日本では、採取しつくした木を伐採する「殺し掻き」が行われます。当社は生産地と独自に連携し、国産漆を安定して確保しています。

なぜ文化財修理では国産漆でなければならないのですか

文化財の保存修理は当初と同じ材料・技法で行うのが原則であり、日本の建造物に用いられてきたのが国産漆だからです。

理由は理念だけではありません。材料が変われば、物理的な性質も変わります。

日本産・中国産ウルシオールが主成分
ベトナム産ラッコールが主成分
ミャンマー産チチオールが主成分

主成分が違えば、硬化の仕方も、塗膜の硬さや光沢も変わります。日本の建造物は国産漆の性質に合わせて下地や工法が組み立てられてきたため、材料だけを差し替えると前提が崩れます。

漆掻きとはどのような作業ですか

漆の木に傷をつけ、滲み出た樹液を掻き取る作業です。すべて手作業で、約半年をかけて行います。

植樹から採取まで7〜10年育てます。梅雨頃から表皮に傷をつけ始め、季節によって性質の違う漆が採れます。

初辺(はつへん)初期の樹液。水分量が多い。
盛り辺(さかりへん)水分量と粘度のバランスがよいもの。最も質が良いとされます。
遅辺(おそへん)秋口からの樹液。

これらを総称して辺漆(へんうるし)と呼びます。ほかに、掻き痕のない部分から採る裏目漆・留漆などもあります。

漆掻きの道具 表皮をめくる皮剥ぎ鎌、掻き疵をつける掻き鎌・えぐり鎌、滲み出た漆を掻き取る掻きベラ、それを入れる漆壺・漆桶などを用います。いずれも手作業のための道具です。

採取した漆は、どのような状態ですか

採りたての樹液は乳白色で、樹皮や土が混じった「粗味漆」です。これを漉し、精製して塗料にします。

  1. 粗味漆(あらみうるし) 採取したままの樹液。樹皮や土が混じっています。
  2. 生漆(きうるし) 綿や布で漉して不純物を除いたもの。
  3. 精製漆 撹拌して均一にする「なやし」、加熱して水分を飛ばす「くろめ」を経たもの。

採取する場所によっても呼び名が分かれます。

裏目漆・留漆掻き痕のない部分から採る漆。
瀬〆漆(せじめうるし)細い枝や梢から採る漆。現在は利用されていません。

精製の段階と種類の違いは漆の種類で詳しく解説しています。

殺し掻きとは何ですか

採取を始めたその年のうちに漆の木を伐採し、樹液を余さず採りきる方法です。日本ではこれが主流です。

一本の木から採れるだけ採り、その年に伐採します。そして7〜10年後のために苗を植え直します。つまり、いま採れる漆は10年前の植樹の成果であり、いま植える苗は10年後のためのものです。

殺し掻き(日本)その年に採りきって伐採。質の高い漆が得られるとされますが、木は失われます。
養生掻き(中国)1本の木から何年かにわたって採取します。

この違いは、単なる方法の差ではなく漆という材料に対する考え方の差でもあります。

漆掻きの一年は、どのように進みますか

梅雨頃に始まり、季節ごとに性質の違う漆を採りながら、約半年かけて採りきります。採取を終えた木は伐採し、次のために苗を植えます。

  1. 梅雨頃 漆の木の表皮に傷をつけ始めます。初期に採れるのが、水分量の多い初辺(はつへん)です。初瀬(はつせ)とも呼ばれます。
  2. 盛りの時期 水分量と粘度のバランスがよい盛り辺(さかりへん)が採れます。
  3. 秋口から 盛り辺のあとの遅辺(おそへん)を採ります。
  4. 採りきる 掻き痕のない部分から裏目漆・留漆を採り、約半年で採取を終えます。
  5. 伐採と植樹 採りつくした木を伐採し、7〜10年後のために苗を植えます。

一本の木から採れる漆は、この半年の作業で180〜200cc程度です。漆の一滴一滴に、10年近い時間と半年の手作業が込められているということです。

なぜ国産漆はこれほど貴重なのですか

7〜10年育てた木1本から180〜200cc程度しか採れず、すべて手作業だからです。

この数字が、国産漆の希少さをそのまま表しています。人手がかかるうえに生産性が低く、化学塗料の普及に押されて植林も減りました。

現在、国産漆の産地は岩手県二戸市浄法寺地区が代表的で、京都府内にもわずかに産地があります。江戸時代には各藩の殖産興業として広く栽培された時期もありましたが、今では限られています。

当社は国内でも数少ない漆生産地と直接連携することで、文化財修理に必要な国産漆を安定的に確保しています。材料が手に入らなければ、技術があっても仕事は成立しません。産地との関係は、施工体制そのものの一部です。

関連:漆の種類/漆塗り

国産漆が確保できないと、修理はどうなりますか

文化財修理では国産漆の使用が原則のため、材料が確保できなければ工事そのものが成り立ちません。

漆の木は、植樹から採取まで7〜10年かかります。必要になったからといって、翌年に増やせる材料ではありません。

増産に時間がかかるいま採れる漆は、7〜10年前に植えた木から採ったものです。
採取量が限られる1本の木から採れるのは180〜200cc程度で、すべて手作業です。
産地が限られる植林しているところは全国でも少なくなっています。

そのため材料の確保は、工事の計画段階から考えておくべき要素です。規模の大きな工事では、必要な漆の量を早めに見込んでおくことが、工程の安定につながります。

よくある質問

なぜ文化財修理では国産漆を使うのですか

文化財の保存修理は当初と同じ材料・技法で行うのが原則であり、日本の建造物に用いられてきたのが国産漆だからです。産地によって主成分も異なり(日本・中国はウルシオール、ベトナムはラッコール、ミャンマーはチチオール)、材料が変われば硬化の仕方も塗膜の性質も変わります。

殺し掻きとは何ですか

採取を始めたその年のうちに漆の木を伐採し、樹液を余さず採りきる方法です。日本ではこれが主流で、採取後は7〜10年後のために苗を植え直します。中国では1本の木から何年かにわたって採る「養生掻き」が行われます。

漆の木1本からどのくらい採れますか

およそ180〜200cc程度です。植樹から採取まで7〜10年育ててこの量で、しかも漆掻きはすべて手作業です。人手がかかるうえに生産性が低いため、国産漆は非常に貴重な材料となっています。

国産漆の産地はどこですか

岩手県二戸市浄法寺地区が代表的で、京都府内にもわずかに産地があります。江戸時代には各藩の殖産興業として広く栽培された時期もありましたが、化学塗料の普及に押されて植林が減り、現在は限られた産地のみとなっています。

採取したばかりの漆はどのような状態ですか

採りたての樹液は乳白色で、樹皮や土が混じった粗味漆と呼ばれる状態です。これを綿や布で漉して生漆にし、さらに撹拌する「なやし」と加熱して水分を飛ばす「くろめ」を経て、塗料として使える精製漆になります。

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