漆の技法と材料
このページの要点
「漆」とひと口に言っても、精製の段階、油分の有無、混ぜる顔料によって用途ごとに細かく分かれます。押さえるべき原則はひとつ、「仕上げ方が違えば、使う漆そのものが違う」ということです。油分を入れれば塗立漆(花塗用)、入れなければ蝋色漆。もとは同じ樹液から、仕上げの数だけ漆が枝分かれしていきます。

採取したままの粗味漆、不純物を除いた生漆、水分を飛ばした精製漆の三段階に分かれます。
精製した透明な漆を素黒目(すぐろめ)または木地呂漆(きじろうるし)と呼びます。ここからさらに枝分かれしていきます。
木地固め、下地、刻苧・麦漆、摺漆、蝋色の摺り込みなど、木地や塗膜に「しみ込ませて固める」用途が中心です。
| 木地固め | 木地にしみ込ませて固めます。 |
| 下地 | 地の粉・砥の粉を漆で練って下地にします(堅地)。 |
| 刻苧・麦漆 | 木粉や小麦粉と練り、充填材・接着材にします。 |
| 摺漆(拭き漆) | 木地に摺り込んでは拭き取り、木目を見せます。 |
| 蝋色の摺り込み | 研いだ面に薄く摺り込み、磨いて艶を上げます。 |
油分を入れれば艶のある塗立漆、入れなければ磨いて鏡面にできる蝋色漆になります。
| 塗立漆(花塗漆) | 荏油・亜麻仁油・桐油などの油分を加えた漆。それ自体に艶があり、刷毛目を残したまま仕上げる花塗に用います。 |
| 蝋色漆(ろいろうるし) | 油分を入れない漆。塗ったあとに研いで磨く蝋色仕上げに用います。呂色漆とも書きます。 |
| 朱合漆(しゅあいうるし) | 透明な漆に油分を入れたもの。塗立漆の一種です。 |
| 箔下漆(はくしたうるし) | 金箔を押すための漆。油分を入れません。漆箔に用います。 |
油分のある漆を磨いても深い艶は出ません。蝋色に仕上げたいなら、塗る段階から蝋色漆を使う必要があるということです。仕上げの決定は、塗り始める前に済ませておかなければなりません。
どちらも油分を入れない漆です。蝋色漆・箔下漆・梨地漆は、無油の漆に含まれます。
| 油分を入れない漆 | 蝋色漆、箔下漆、梨地漆 |
| 油分を入れた漆 | 塗立漆(花塗漆)、朱合漆 |
蝋色・金箔押し・梨地は、いずれも無油の漆を使う仕上げです。仕上げが決まれば、使う漆も決まるという関係は、ここでも変わりません。金箔押しについては漆箔とは、梨地については梨地・変わり塗りをご覧ください。
精製漆に顔料を混ぜて色を出します。何も入れなければ、下や木目が透ける透き漆になります。
| 黒漆 | 鉄分・水酸化鉄などを加えたもの。江戸時代には鉄漿(おはぐろ)が用いられました。 |
| 朱漆 | 辰砂朱(しんしゃしゅ)や紅柄(べんがら)を加えたもの。 |
| うるみ(潤み) | 赤と黒を混ぜた、あずき色。落ち着いた色調になります。 |
| 透き漆 | 顔料を入れず、下の色や木目を透かします。溜塗・春慶塗に用います。 |
青(緑)や黄の色漆も可能です。ただし漆そのものが飴色を帯びているため、明るい色や淡い色は出しにくいという制約があります。鮮やかな色が必要な場合は、漆ではなく彩色の技法を用います。
主成分が異なります。日本産・中国産はウルシオール、ベトナム産はラッコール、ミャンマー産はチチオールが主成分です。
主成分が違えば、硬化の仕方も塗膜の性質も変わります。同じ「漆」という名前でも、扱い方を変えなければならない別の材料と考えるべきものです。
そのため文化財修理では、国産漆の使用が原則として義務づけられています。日本の建造物は国産漆の性質に合わせて下地や工法が組み立てられてきたため、材料を変えると前提が崩れるからです。
詳しくは国産漆と漆掻きをご覧ください。
もとは同じ樹液から、精製・油分・顔料の違いで次のように分かれます。
| 粗味漆 | 採取したままの樹液。漉して生漆にします。 |
| 生漆 | 木地固め、下地、刻苧・麦漆、摺漆、蝋色の摺り込み。 |
| 素黒目・木地呂漆 | 精製した透明な漆。透き漆として溜塗・春慶塗に。 |
| 塗立漆(花塗漆)・朱合漆 | 油分を入れた漆。花塗の上塗りに。 |
| 蝋色漆 | 油分を入れない漆。蝋色仕上げに。 |
| 箔下漆 | 油分を入れない漆。金箔押しに。 |
| 梨地漆 | 油分を入れない漆。梨地に。 |
| 黒漆 | 精製漆に油煙や鉄分、水酸化鉄を加えたもの。 |
| 朱漆 | 精製漆に辰砂朱や紅柄を加えたもの。 |
修理では、当初どの漆で仕上げられていたかを見極め、同じ系統の漆で戻すことが基本です。
採取したままの樹液(粗味漆)を綿や布で漉して不純物を除いたものが生漆です。生漆をさらに撹拌して均一にする「なやし」と、加熱して水分を飛ばす「くろめ」の工程にかけたものが精製漆で、素黒目または木地呂漆と呼ばれます。
油分の有無が違います。塗立漆(花塗漆)は荏油や亜麻仁油などの油分を加えた漆で、それ自体に艶があり刷毛目を残す花塗に用います。蝋色漆は油分を入れない漆で、塗ったあとに研いで磨く蝋色仕上げに用います。油分のある漆を磨いても深い艶は出ないため、仕上げは塗り始める前に決めておく必要があります。
出しにくいという制約があります。漆そのものが飴色を帯びているため、明るい色や淡い色の再現には限界があります。黒、朱、うるみ(あずき色)、透き漆が中心で、鮮やかな色が必要な場合は漆ではなく彩色の技法を用います。
違います。日本産と中国産の漆はウルシオールが主成分ですが、ベトナム産はラッコール、ミャンマー産はチチオールが主成分です。主成分が違えば硬化の仕方も塗膜の性質も変わります。文化財修理では原則として国産漆の使用が義務づけられています。
木地固め、地の粉や砥の粉を練る下地、刻苧や麦漆、摺漆(拭き漆)、蝋色の摺り込みなど、木地や塗膜にしみ込ませて固める用途が中心です。
入っていません。蝋色漆・箔下漆・梨地漆はいずれも油分を入れない漆です。油分を入れた漆は塗立漆(花塗漆)や朱合漆と呼ばれ、花塗の上塗りに用います。
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